石川康晴の哲学塾 Vol.20
×西園寺 薫(LEON総編集長)

ジェントルマンのバイブル「LEON」の創刊からグローバル展開まで果たした日本屈指の名編集者、西園寺氏に独自の人生哲学とこれからの展望を訊く。

石川)日本はもちろん、アジアのラグジュアリーメンズ誌の代名詞とも言える「レオン」の総編集長を務める西園寺さんですが、これまでに手がけたメディアはこの他にも多岐に渡ります。数々の仕掛け人であり、ベテラン編集者でもありながら、現在は株式会社主婦と生活社の常務取締役として経営にも携わられているわけですが、改めてこれまでの歩みを教えていただけますか。

西園寺)大学生の頃から編集者、ライターとして既に雑誌や書籍などの制作に携わっていました。卒業後はフリーランスの編集者、ディレクターとしてたくさんのプロジェクトに参画。自由にいろんな世界に飛び込んでいくにはフリーであることが理想の形でした。自分の世界が広がるにつれてやりたい媒体や仕事の内容も変わっていくので、基本的には会社に属するということをしないできたのですが、二〇一一年からは現職に就いています。レオンも創刊当初は外部のディレクターとして立ち上げに携わっていたのですが、後に編集長として媒体の指揮を直に執る立場になり、二〇〇九年には中国版レオンを創刊。続けて韓国版も創刊し、アジア戦略を強化することでより国際的な認知度と信頼性を高めることに成功しました。二〇一六年には更なるグローバル戦略を推進するため、レオン・インターナショナル(英語版レオン)を欧州でローンチする予定です。昔からファッションはもちろん、自動車レースやヨットなどいろんなことに夢中になっていましたが、手がける媒体だけでなく年齢を重ねながら自分自身の趣味やライフスタイルもラグジュアリーに集約されていったという感じでしょうか。媒体や書籍に関わるということだけは若い頃からいまも変わっていませんね。

石川)そんな西園寺さんがレオンとはまた異なったライフスタイル・メディアの開発を構想していた時でしょうか。昨年ある方を通じて会食の機会をいただいてからすぐに意気投合し、現在二人で仮称プレミアム・ジャパン・プロジェクトと題して、今年九月のローンチを目指し、日本のプレミアムな“ものづくり”に焦点を当てたグローバル・ポータルサイト「キュレーション・ジャパン」の立ち上げを計画しています。衣食住に関わるプロダクトや伝統工芸品、アート、サブカルチャー、ジャンルを問わず日本の上質なもの、世界で評価されるであろうものを発掘、リブランディングしながらグローバルに発信するウェブサイト。ゆくゆくは高級百貨店やセレクトショップとの連携、実店舗の開発やオンラインでの販売など世界中の消費者の元に届ける体制も整えたいと考えています。ひとりでも多くの人に日本の匠の技術や職人の思いを感じてもらいたいし、リスペクトを集めて買ってもらえるスキームを構築したい。これらが形になることで、継承者不足や経営に悩む日本の「本物」を救うことにもなるという希望も持っています。

西園寺)お互いアパレルと出版という異なる分野ですが、世界を見て回る中で感じていたことにも共通項が多く、同じベクトルに向かって自然と合致したという稀有な体験でした。私はこれまで海外のハイブランドを中心にメゾンブランド、ラグジュアリーブランドを日本に紹介するということを仕事にしてきました。十四年前に創刊したレオンは最も分かりやすい例かもしれません。日本はこれまで永く海外に多くのことを学んできたし、これからもまだまだ学ぶことは少なくないと思います。しかし、いま世界から注目を集めているのは我々の国、日本に間違いありません。特にここ五、六年は海外のクリエイターやブランドの人間からの「もっと日本について知りたい」という声をよく耳にするようになりました。なぜ日本に興味があるのかを尋ねると、あらゆる面で伝統と革新、王道のカルチャーからサブカルチャーまでが揃った国は日本しかないと皆口々に言います。彼らの言葉もきっかけとなり、自分自身も日本を見直し、再評価したいと考えるようになりました。私も今年で五十五歳になりますが、ビジネスマン、編集者として最後の仕事を考えた時、日本の素晴らしいものを発掘、再発見しながらこれらをグローバルに発信・展開できるものにしたいと考えていたときに最良のパートナーと出会うことができ、とても嬉しく思っています。

石川)西園寺さんには国内をより隅々まで先頭に立ってリサーチしていただき、失われつつある技法や素材の再発見、誰もが知るメイドインジャパン製品の新たな見せ方を共に考えていきたいと思っています。今回は二人して着物で撮影に臨んでいますが、海外に向けて発信すると同時に、日本人に対しても自国の素晴らしいところを再発見してライフスタイルに取り入れてもらえるきっかけとなるサイトにしていきたいですね。

西園寺)今回のプロジェクトの一番のポイントは、ラグジュアリーに限るのではなく、あくまでプレミアムにこだわるというところにあります。高級であること以上に、紹介するものがいかに上質であるかということが重要。しかし、いくら上質なものを訴求しても、そもそも興味を持ってもらえなければ意味がありません。例えば、何年も時間をかけて養蚕から匠の技術で作られる百万円を超えるような着物の良さを伝えつつも、スーツと同じような感覚で装いに取り入れられる品質の確かなエントリーモデルを独自に開発したいという構想も練っています。体験して慣れてもらうことで、その先に日本の良さを感じてもらえる世界を作りたいですね。そして、日本の伝統的なものばかりでなく、隠れた名品も広く紹介していきたいと思っています。例えば、国内でモダンなバスタブを生産するジャクソンという会社があるのですが、日本ではそこまで知られてはいません。しかし、世界では最も優れたバスタブと評価されている。日本人が自国の素晴らしいものに気づくことのできる、そんなメディアを目指していきたいと思います。

石川)私はこれまでメディアを戦略的に利用する立場、西園寺さんはメディアを創り上げ運営する立場でそれぞれ仕事をしてきましたが、そんな二人がタッグを組むからこそ、新しいメディアの在り方を提案できるのではないかと思っています。世界的にも雑誌や書籍といった紙媒体は斜陽産業だという見方が強まっているようにも感じますが、いまなお大きな影響力を持つ雑誌を作り続けている西園寺さんは今後のメディアの在り方はどのように変わっていくとお考えですか。

西園寺)今回私たちが発信するメディアをウェブサイトというカタチに決めたのは、グローバルな展開を考えた時にもっとも効率的で合理的であるということからの選択でした。確かにこれからは紙媒体にとってはより厳しく淘汰される時代がくるでしょう。しかし、どれだけ情報技術が発達して新たなメディアが台頭したとしても、突きつめればテレビやラジオ、新聞といったマスメディアから個人のブログまで、情報発信する媒体のカタチは特に関係がないと考えています。大事なのはどれだけオリジナリティの高いコンテンツを形成できるかということ。そして、そこにいかにエンターテインメント性を鏤められるかが重要です。メディアはもちろん、ファッションやそれ以外の分野でもこの二つがあるかどうかで業績も将来性も大きく変わってくるはずです。「キュレーション・ジャパン」はこれらを踏まえて世界をアッと言わせるようなものにしたいですね。まずはそこから少しずつビジネスにフィードバックしていきたいと思っています。

石川)今期クロスカンパニーでは「ユーザー・ドライブ」というキーワードを掲げました。ここで言うドライブとは高揚感のこと。西園寺さんの仰るエンターテインメント性を店舗開発や接客、商品に付け加えていくことで、お客様が満足されるレベルを超えたワクワク感を生み出していきたいと考えています。増税や景況感に関係なく支持されるブランドに成長させる、そうしたコンテンツへと昇華できるかが重要。これができれば外的要因に左右されることもないはずです。アパレル小売の場合はその日の天気や天候を売上の言い訳にすることも少なくないですが、どんな業界であっても、周りの環境ではなく見直すべきことの多くは自分たちにある。私もこれまでのノウハウや経験を「キュレーション・ジャパン」に注ぎ、世界的なライフスタイルの変化に役立てるメディアにしていきたいと思っています。最後に、読者の方々へのメッセージも含めて西園寺さんの仕事における人生の哲学を教えてください。

西園寺)仕事と同じくらい情熱を傾けられる趣味を持って欲しいと思います。学生の頃に知ったイギリスの格言に「ふたつの大きな川を自分の中に持っておけ」という言葉があるのですが、スポーツでも音楽でもアートでも、何か一つ没頭できる趣味があることで飛躍的にその人の世界は広がるはずです。私の場合、いまはゴルフに集約しましたが、若いころは仕事で徹夜しても波乗りやサーキットに行ってました(笑)。自分が向き合う趣味の場で出会う人々との交流で自分には無い考え方に触れることも多く、いまに繋がる刺激もたくさん得ました。海外で知り合う大企業のCEOやブランドのマネージャーなどとも趣味を通じて懇意になることも多く、そこから人脈が広がることも少なくありません。そして、若いうちはお金を自分自身への投資に回すべきだと思います。自分の場合、二十代三十代の時期は稼いだお金のほとんどを海外に渡航する為に使っていました。自分がまだ経験したことの無い体験にお金と時間を使うことが大切。これは日常のシーンでも同様です。例えば飲みに行くとき。気心の知れた相手とお酒を酌み交わすよりも、全く知らない相手と飲む、会いたいと思っている人をなんとかたぐり寄せて飲む機会をつくる。こうした新しい体験を求める姿勢、積み重ねが将来的に役立ってくると思います。

石川)これまで気づかなかった発見があったり、新たな体験に結びつくようなメディア。プレミアム・ジャパン・プロジェクトは日本の次世代を育てる上でも大きな役割を果たせるかもしれませんね。

西園寺 薫

(株)主婦と生活社常務取締役・編集本部本部長・LEON総編集長。1960年北海道生まれ。編集者・ディレクターとして多くのファッション&ライフスタイル誌の創刊及び編集に携わる。2006年よりLEON編集長。2009年に日本の男性雑誌としては初となる本格的な海外出版「LEON China」(中国版レオン)をスタート。2012年には「LEON Korea」(韓国版レオン)を創刊しアジア戦略を強化。LEONグループ全体のブランド価値を高めることで国際的な認知度と信頼性を高めることに成功し世界的なラグジュアリー雑誌へと成長させた。2011年より現職。

石川 康晴

(株)クロスカンパニー代表取締役社長。1970年岡山市生まれ。国立岡山大学経済学部卒。京都大学大学院在学中。1994年クロスカンパニーを創業。1999年にearth music&ecologyを立ち上げ、現在グループで売上1100億円、従業員4500名、世界28カ国で展開し1200店舗まで拡大。2011年9月には中国に進出。宮﨑あおいを起用したテレビCMでも注目を集める一方、女性支援制度の充実、地域貢献活動へも積極的に取り組む。石川文化振興財団理事長、内閣府男女共同参画推進連携会議議員なども務める。

編集者PLUG

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