石川康晴の哲学塾 Vol.2
×権八成裕

クロスカンパニー代表の石川康晴氏が、日本を牽引する人物と対談するこの企画。第二弾は、2003年にクリエイティブエージェンシー「シンガタ」設立に参加し、多数ブランドのCMや雑誌連載、またSMAP楽曲の作詞までと幅広く活躍するCMプランナーの権八成裕氏を迎え、彼の人生哲学を聞いた。

石川)権八さんには自社のブランド「アースミュージック&エコロジー」のテレビCMを製作していただき、そのご縁で知り合うことになった訳ですが、うちのCMも含め岡田将生さんと温水洋一さんのビタミンウォーターやSoftBankのSMAPシリーズ、また香取慎吾さんのDoleマンなど権八さんの手掛ける作品は常に僕らの予想を気持ちよく裏切ってくれるもので毎回驚かされています。宮崎あおいちゃんとブルーハーツの曲の組み合わせなんて普通は考えつかない。権八さんのその発想は一体どこから生まれるんですか?

権八)僕らの仕事は、CM制作ということで言えば投げられた球を打ち返すみたいな所があります。でも、その中でやっぱり他とは違う所にこだわったり、一緒にされたくないという思いはあります。基本的には、クライアントごとにそれぞれの企業の課題がある中での作業が仕事の基本ですよね。「広告」って、基本的には皆さん見たくない物だと思うんです。僕でさえCMは飛ばしちゃうし(笑)。しかし、それでもなお人に振り向いてもらえるものを作る、という事をいつも念頭において仕事をしています。

石川)一日に何百本もCMが流れている中で、新しいもの、しかも人々の脳裏に記憶を残すものを作るというのは相当難しいことだと思います。今回アースのCMに宮崎あおいちゃんを起用した際に、僕自身もあおいちゃんを使うという事で色々考えて、制作キャストもエース級を揃えなきゃないけないと思った。そして、権八さんなら一日に数十本も流れている宮崎あおいちゃんのCMの中で、「アースのあおいちゃん」でしかできないものを作ってくれるんじゃないかなと思ってお願いしたのですが、見事にやってくれましたね。

権八)いえいえそんな。恐縮です。でも、僕ら制作スタッフからすると普通よりもハードルが高かったんです。宮崎あおいちゃんといえば、もう既にいいイメージが確立されている女優さんじゃないですか。CMにも沢山出演してるし、スウィートでナチュラルで優しいなどというイメージですよね。石川社長も、おそらくそんなあおいちゃんをイメージされる中で「アースミュージック&エコロジー」のブランドとの接点を見られてるんだろうなと。その中でも、僕はどこかで世の中の「あおいちゃん像」を裏切らなきゃいけないと思っていました。

石川)最初に権八さんから提案をもらった時は、ブルーハーツとあおいちゃん??って感じで、かなり驚かされました(笑)。どんな時にそんな発想が生まれてくるんですか?

権八)ふとアイディアが生まれるというよりは、僕はどちらかというとちゃんと考えようとしなければ思いつかないタイプですね。とはいえ、やはり仕事柄いつもたくさんの宿題を抱えてるような感じなので、頭の奥にはいつも薄く意識はあって、ごくたまに、ふと思いつくこともあります。頭洗ってる時だとか(笑)。昔はよく枕元にメモ用紙置いて寝てたりしましたよ。寝る前って、その日起こった事が頭から抜けていって新しいものがふと浮かぶ瞬間があるじゃないですか。その閃きをメモに書き留めといて寝るんです。朝見ると意味不明だったりするんだけど(笑)。

石川)すごく共感しますね。権八さんの仕事も僕の仕事も同じだと思うんだけど、結局はどんな事してる時も仕事につながるよね。見るもの触れるもののすべてがその材料になっていく。昨日も海に行ったんだけど、気付けばその島をマーケティングしてるんですよ。ここにはセレブリティ来ないなとか、車を見て、ここに遊びに来ている人の所得を考えてみたり、気付けばそんなことばかり考えてる。経営者もクリエイターもそうだと思うけど、嫌で仕事してない分追われる事がそんなに嫌いじゃなかったりするよね。

権八)まあ、追われるストレスがないとは言えませんが(笑)、こんな仕事でも何年かに一度くらいのペースで色んなCMがまとまって納期を迎え、宿題がない状態になる時があるんです。そんな時、最初は夏休みを迎えた子供みたいに嬉しいんですが、何日か経って仕事のこと何も考えてない自分に気付いて、不安になるんです。もし、今急に誰かから何か頼まれたら俺面白いこと思いつくかな〜、って。

石川)そうだよね。僕は、四流というのはコミュニケーション型で皆と和気藹々としたくて、三流は小さな賞与や昇給を狙ってる。二流は大きな肩書きや対価を狙い、一流になると、人や社会からの評価にこだわっている、という持論があるんです。例えば、イチローも今世界の頂点で働いてる。そんな彼が何故まだ頑張るのかというと、きっと皆が「イチローは今年も二百本打つだろう」と期待しているからだと思う。人の評価という部分をすごく意識している気がするんです。そんな部分、権八さんはどうですか?

権八)確かに人の評価は気になります。子供みたいだと思われるかも知れないけれど、純粋に褒められると嬉しいですもんね。

石川)例えば何の制約もなく予算も自由に決めて、権八さんのしたいこと自由にやっていいよって言われたら、権八さんは何がしたいですか?

権八) 難しい質問ですね!何か制作するっていう条件ですよね?そうだなあ・・・、もし、時間も好きなだけ使っていいなら、僕はおそらく文章を書くと思います。その中で予算が与えられたら取材とかもするだろうけど、とにかく自分一人で完結する作業をしたいという欲求はあります。本当は、明日生きてくことが出来ない人達を救えるようなエンターテイメント、と言いたいけど、予算が無制限なら、そのお金でとっとと解決してあげたいし。ちなみに、よくCMのターゲットとか言いますが、実はいつも心のどこかでターゲットなんて無いと思ってたりして、やっぱりTVに映る以上皆に見られている訳で、根底の部分では結局見た人みんなを良くしたい、喜ばせたいって思ってるんですよね。誰かをターゲットにしてとかでは無く、皆から愛されるものを発信したい。いいニュースがない中でも、皆が盛り上がれるようなものを作りたいとは常々思ってます。

石川)そうだよね。権八さんの所には毎日すごい数のオーダーがきてて、だからこそ何でもできるとしたら「一人で完結できるもの」に取り組みたいと。その発想もすごく納得だし、何よりも結果的に今作っているものも、十五秒の世界でちゃんと国民を楽しくできているということがすごい。権八さんにとって仕事とは何ですか?

権八)これもまた難しい質問ですね・・・。数年後にはまた変わってると思いますが、僕の中では、仕事とは「偶然することになってしまった物」という感じですかね。上手く伝えられなくてすみません。でも、学生の時からそうだけどこういう仕事をするようになったのも、電通が学生向けにやる塾を開いていた時に友達に何となく勧められて、やってみたら面白かったというのがきっかけなんです。だから、石川社長のように、若い頃から「この仕事をするんだ」ということを決めて生きてきた人が羨ましくて。僕はそういうのが無いので結構コンプレックスだったりするんです(笑)。

石川)確かに若い頃から決めていたけど、僕もこの仕事を始めたきっかけは権八さんと同じですよ。たまたま自分がよく洋服買いに行ってたお店のお兄さんが「そんなに服好きなら服屋すれば?」って言ってくれた事がきっかけなので。それが無かったら今はないでしょう。そう考えるとタイミングや縁を見極めてチャンスを掴める「嗅覚」が大事なんだと思うよね。嗅覚で言うと、権八さんは仕事を通じて今の日本を直に感じる機会も多いと思いますが、今の日本をどう思いますか?

権八)日本人は今すごくメディアに左右されるようになってしまったなと感じます。携帯やネットで色んな事を自由に発信できるようになったと思いきや、スタンダードな意見や世の中の皆は何て言ってるの?って事をすごく気にしている。

石川)本質が見抜けず、ただ風向きに乗っかる人が多いですよね。僕は最近、今の風潮は次のステップに行くための一つの通過点なのかなと思うんです。メディアに右と言われば右に大移動する今だからこそ、その風向きに逆行していく人達がこれからはもっと増えていくんじゃないかと思うんです。だから今が、十年後に一人一人が自分のアイデンティティを出せるようになるための一番の末期症状の時期でありスタート地点なんじゃないかな、と。あと三年くらいで「皆が良いって言ってる物って結局良くないよね」って気付くと思っています。

権八)ネガティブなことをマスコミが発信すると、飛びつきますよね。悪い方にのっかる風潮はまだまだ残ってる。変えていきたいですよね。

石川)権八さん、一緒にネガティブな日本をポジティブな日本に変えていきましょうよ。権八さんは僕らなんかよりも一瞬で日本をポジティブにできる力を持っているもの。僕らは良い服を一人一人に向けて地道に広めていく感じだけど、権八さんは一気にポジティブにすることが出来ますよね。今日は権八さんらしい答えが聞けて嬉しかったです。これからも期待していますよ。

権八)ありがとうございます、恐縮です。なんだか関節をはずすような答えばかりですみません(笑)。これからもどうぞ宜しくお願いします。

権八 成裕/シンガタCMプランナー

1974年横浜生まれ。慶応大学SFC卒業。1998年電通入社。2003年「シンガタ」設立に参加し、最近では岡田将生と温水洋一の「ビタミンウォーター」や「SMAPのSoftBank」香取慎吾の「Doleマン」など、CMクリエーターとして活躍中。

石川 康晴/(株)クロスカンパニー 代表取締役 社長

1970年岡山県岡山市生まれ。株式会社クロスカンパニー代表。大手アパレルで経験を積み23歳で起業し、1995年に(株)クロスカンパニーを設立。現在は岡山大学経済学部に在学中。

編集者PLUG

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