石川康晴の哲学塾 Vol.19
×片山 正通(株式会社ワンダーウォール)×那須 太郎(現代美術ギャラリーTARO NASU)

岡山を同じ郷土に持つ三人が仕掛けたアートの祭典Imagineering OKAYAMA ART PROJECT が開幕!石川コレクションを収蔵した石川ミュージアム建設の構想も。目指すは世界一の国際芸術祭!

「街が美術館となり、散歩がアートとの出会いになる。」をキーワードにしたアートイベント「Imagineering OKAYAMA ART PROJECT」が十一月二日より開幕した。歴史的文化資産である岡山城とその周辺を中心に、国内外から注目を集めるアートコレクション「石川コレクション」を展示し日常の中に芽生えるアートとの出会いを通じて、家族や子どもたち、市民ひとりひとりが想像し、創造できる場を生み出すこと、さらには本コンテンツを軸として、都市部から人々が瀬戸内地域を訪れる際に、岡山市がその導線の中心になり、瀬戸内のハブになるきっかけになることを目指したプロジェクトだ。今回の哲学塾は、現代アートコレクターとして自身が所有する作品を提供する同プロジェクト代表クロスカンパニー石川社長と、アドバイザリー及びエキシビジョン・スペース・デザインを担当し、ポスターやリーフレットなどのヴィジュアル面のディレクション、デザインなども手がけた世界的インテリアデザイナーWonderwall片山正通氏。そして、石川コレクションの収集に関わり、本プロジェクトのアートアドバイザリーを務める現代美術ギャラリーTARO NASU代表であり、ギャラリストの那須太郎氏、全員が岡山県出身者というプロジェクトメンバー三氏にImagineeringの見どころや開催への思いを訊いた。

PLUG)まず今回のアートイベント「Imagineering」開催に至った経緯を教えてください。

石川)Imagineeringはimagination(想像力)とengi -neering(工学)を組み合わせた造語で、想像力を駆使してよりよい未来を具現化しよう、というメッセージを込めています。文化的資産のある岡山を、アートで盛り上げ、世界に誇るクリエイティブな都市に。その思いで現代アートのコレクションを始めました。今回のイベントを出発点にヴェニス・ビエンナーレ(※)を超える国際的なアートイベントを目指して行きたいと思っています。今回展示している作品は二十作品ほどですが、現在石川コレクションは八十作品近くにのぼります。国際的なアートイベントを目指す過程で、岡山に私の全コレクションを収蔵した美術館「石川ミュージアム」の建設も予定しています。

PLUG)片山さんは作品を展示するエキシビションスペースの他、今回のImagineeringで使用されているポスターなどのヴィジュアルデザインも手がけられていますが、全体のデザインを考える上でコンセプトに据えられたのはどんなところですか。

片山)デザインがアートにどのように関わるかということを考える上で、デザインをしないということをコンセプトにしました。コンセプチュアルアートは概念を形にしたアートなので、自分の作るデザインが全面に主張され過ぎない方が良いんじゃないかと。岡山城の天守閣中の段に作ったパビリオンも、Rirkrit Tiravanijaの鏡面仕上げにされたステンレススチール製の卓球台を並べたステージもなるべく作品が引き立つように真っ白で統一しています。メインヴィジュアルであるピンクのドーナツやトローチ、電車の吊り輪など、真ん中に「O」がある物体を主役にしたポスターやバナー、屋外看板などを目にして頂いていると思いますが、これは岡山を英語表記にした際の頭文字「O(オー)」と、このイベントが初回で出発点であるということから「0(ゼロ)」という二つの意味を持たせました。そして、日本の地方公共団体につけられた岡山のコード番号が「JP33」ということから、全部で三十三個のヴィジュアルを用意しています。キーワードの設定から製作物まで、ものすごくこだわっているんですが、あえて説明はしていません。このヴィジュアルに何か意味があるのかなと考えるという、コンセプチュアルアートに近い時間軸や奥行きを与えたかった。今回はそんなきっかけだけをデザインしたかったんです。

PLUG)現代アートは一般の方にとってはその鑑賞の仕方が難しい、分からないと言った声も少なくありません。プロジェクトメンバーそれぞれが感じる現代アートの魅力や、楽しみ方を教えてください。

那須)難しくて分からないことが面白いことだと思っています。子どもはどんなことでも分からないことを大人に質問してきますが、大人は分からないことがあったとしても、ある意味分かったつもりになって処理してしまうばかりか、分からないことを精神的に排除してしまう傾向があります。そして、目の前に分からないものを突きつけられると拒否反応を示す。しかし、その時は分からないものであったとしても、作品に触れたことで気持ちや考え方、行動にさえ化学変化が起きることもあります。鑑賞の仕方、感じ方に正解はありません。私もアーティストが作品に込めたメッセージやストーリーをゼロから百まで本人から聞き出そうとはしません。あくまで、自分の中で余白を残すようにしています。逆に多義的な解釈ができる作品の方が素晴らしいと思います。現代アートは作者とそれを見る人がいて初めて成立する、作家だけでは完成できない芸術だということを知った上で鑑賞してもらいたいし、将来自分の役に立つ可能性のあるものだということを覚えておいてもらいたいですね。

片山)僕も那須さんとすごく近い考え方です。更に付け加えさせてもらうと、子どもから大人になって分かることもあれば、大人になってもわからないこともたくさんあります。例えば、目の前で話をしている人が何を考えているかを知る術はないから、表情で読み取るしか無い。良い人か悪い人かも分からないけど、分からない部分があるからこそ面白い。だから、分からないということを理解した上で、自分がどう読み取るか、そこが面白いんです。僕はアートが大好きですが、理解しているかと言われると十の内で二か三くらい。でも、分からないということに凄く魅力がある。自分で考察する以外に、那須さんにも作品について尋ねますし、本を読んで学んだりもしますが、全部分かってしまうとアートの役割が終わってしまう気がしていて。生きることに置き換えても、自分の人生の到達点が分かってしまったらつまらないじゃないですか。自分の人生そのものをアートを通して可視化しているようなイメージ、これが僕にとってのアートの魅力ですね。

石川)現代アートを鑑賞することは、分からないというところからアートの種を身体に入れることだと思っています。分からないまま過ごしていても、何かのタイミングで自分にとって芽となり花となる可能性がある。そういう意味ではなるべく幼い時から現代アートに触れた方が良いと思うし、大人であれば早い方が良いと思います。例えば、今日もRirkrit Tiravanijaの卓球台で十歳くらいの子どもたちが楽しそうにラリーをしていましたが、この作品に政治外交への示唆を込めた作家の意図は理解していないはずです。それでも、この作品でラリーをしながらコミュニケーションを図ることで既に種が入っている。彼らが大きくなった時にこのことを思い出して作品についてより深く知れば、それが何かのインセンティブに変わる可能性もある。まずは分からないということを分かることが大切。そして、自分が見たまま、感じるままに楽しむだけで十分だと思います。ぜひ御家族でも作品を鑑賞して頂きたいですね。

PLUG)今回展示されている作品の中で、皆さんが特に注目して欲しい作品や思い入れのある作品を教えてください。来場された皆さんが鑑賞するときのひとつのガイドラインになればと。

那須)僕は、岡山城の中の段パビリオンで展示しているPeter Fischli /David Weissの「Untitled(Question projection,big)」です。些細なものから哲学的なものまで様々な問いが4カ国語の文字によって浮かんでは消える映像作品。この作品が発表された二〇〇三年にヴェニス・ビエンナーレで実際に鑑賞した際の感動はいまでも鮮明に覚えています。最初から最後まで鑑賞すると約三十分ほどなのですが、あまりの感動に立ち上がれなかったほど。この作品は結果的にその年の金獅子賞、オリンピックでいうところの金メダルを獲得しました。その他の部門で同じく金獅子賞を受賞した作品はヨーロッパ、アメリカの美術館に購入されていきましたが、こちらの作品を石川社長が購入されたのは二年ほど前。展示方法が難しく、ましてや個人で購入されるということは希有なこと。初めて鑑賞してから十年経過して大好きな作品の購入に携われたこと、そして、故郷岡山で展示できることに巡り合わせを感じています。

片山)岡山城天守閣の入り口に展示されているPhilippe Parrenoの「Marquee」ですね。作品の性質上、取り付ける場所によって制作するので、採寸などを行った上で岡山城の為に作られたということになります。マーキーとは、劇場の入口などに設置される電飾付きのひさしのこと。元来それが取り付けられた建物の中で演劇や映画など何らかのエンターテイメントが行われていることを通行人に示すためのサインですが「注目を促すための存在であったものが、注目するという行為の対象になったとしたら?」という考察のもと生まれた作品シリーズのひとつです。あのクレイジーな作品が岡山城に付いているというだけでもユーモアを感じるし、その意外性やデザイン的なコントラストは見ているだけでも面白い。このマーキーは本当の意味でここでしか見られない作品だと思います。おそらく岡山城の築城から考えても初めてのこと。二度と見られない可能性もあるので強烈に覚えておいて欲しいですね。

那須)雨のことなども考えて屋外で展示されるケースが非常に稀な作品でもあります。Marqueeは夕暮れ時、辺りが真っ暗になる前が鑑賞のタイミングとしては良いと思いますね!

石川)Marquee は石川ミュージアム建設の際にも入り口に備え付けようと思っている作品。僕も大好きな作品です。今回展示しているコレクションの中からどれかひとつを選ぶのは大変難しいですが、Anri Salaの「Answer me」はある意味今回のImagineeringを象徴する作品のように思います。音を効果的に使用した映像で高い評価を受けるAnri Sala。映像と合わせて実際のドラムを展示する作品の性質上、Imagineeringという造語の元になったimagination(想像力)とengineering(工学)が特に表現されている。また、私はこの作品から男女の恋愛に対する感情といった投げかけをインスピレーションとして受け取っているのですが、後楽館天神校舎跡地という元々は教育の場であったところで、この作品を展示することによって生まれる作品の角度をそれぞれに受け取ってもらえればと思っています。

PLUG)最後にImagineeringに来場される皆さんにメッセージをお願いします。

片山)僕はあくまでデザイナーとしての視点でこのプロジェクトに携わらせてもらいました。今回展示する作品を選定して行く上では、作品の素晴らしさは当然のこと、さらに見た目にも素晴らしい作品を選びました。たとえ作品の意味が分からなかったとしても、目に映るもの、感じるものがあればそれもひとつの理解だと思うんです。先ほど紹介があったAnri Salaの作品を例にとると、映像の中でドラムを叩く男性の後ろ姿がカッコいいでもいいし、目の前で動くドラムが面白かったでも、いいんです。映画プロデューサーの川村元気さんは、三歳と二十三歳の時に映画「E.T」を見たそうですが、肝心のストーリーはあまり覚えて無く、E.Tと少年が空に飛んで行くシーンが強烈に心に刻み込まれていると言うんです。そんな風に、強烈なワンシーンを覚えていることも、理解の一つの形だと言っていました。今回のImagineeringも同様で、解釈の仕方や感じ方は様々あって当然です。何か一つでも記憶に残る何かを持ち帰って貰えることを期待しています。

石川)現代社会では多くの人が日々悩みを抱えて生きています。人間の感情や思考を揺さぶってくれる現代アートに向き合うことで、新たな発見や気づきがきっと得られるはず。アートにはそういった力があると思っています。来場してくださった皆さんが新たな一歩を踏み出せる、また、新たなライフスタイルを築いていくきっかけになることを心から願っています。また、今回のイベントを通して、岡山に昔からある貴重な芸術や建築物、文化といった身近な魅力にも向き合って欲しいですね。ル・コルビュジエに師事し日本に近代建築を根付かせた偉大な建築家前川國男が手がけた岡山県庁、林原美術館、天神山文化プラザなど、岡山には知る人ぞ知る文化資産が数多くあります。これらが地元の人にとって当たり前からどうでもいいに風化してしまわないよう、現代アートを取り入れることによって皆が既存の価値にも注目するきっかけになればと思っています。

那須)岡山は大原美術館の大原孫三郎、瀬戸内国際芸術祭の福武總一郎、そして石川社長と三世代に渡ってアートのパトロンを担った実業家を輩出した地域。これは世界中を見渡しても他には例がないことです。私財を投じてアートを身近にしてくれる人材が地元にいるということは、ギャラリストの視点からしてみても岡山の方は非常に恵まれている。ぜひ、この機会に素晴らしい作品に触れて、現代アートの世界を知って頂ければと思います。

片山 正通

株式会社ワンダーウォール代表。武蔵野美術大学(空間演出デザイン学科)教授。1966年、岡山県生まれ。ユニクロ グローバル旗艦店(NY、パリ、銀座、上海他)/ INTERSECT BY LEXUS海外展開/トムブラウン ニューヨーク 青山 / NIKE原宿 / パリ・プランタン百貨店など、アジアはもとより、ヨーロッパ、北米、中東などで国際的にプロジェクトを手掛けている。現在、世界的に最も注目を集めるインテリアデザイナーの一人。Imagineeringではアドバイザリー及びエキシビジョン・スペース・デザインを担当。

那須 太郎

現代美術ギャラリーTARO NASU代表のギャラリスト。1966年、岡山県生まれ。早稲田大学卒業。天満屋美術部勤務を経て、1998年東京都江東区に現代美術画廊TARO NASUを開廊。2008年に千代田区へ移転、現在に至る。著名な現代美術作家の展覧会を通じて美術の普及に務める。国内外の美術館等の公共機関との恊働多数。Imagineeringではアートアドバイザリーを務める。

石川 康晴 

株式会社クロスカンパニー 代表取締役社長。1970年岡山県生まれ。岡山大学経済学部卒。京都大学大学院在学中。94年クロスカンパニーを創業。99年に「earth music&ecology」を立ち上げ、現在では全11ブランド、グループ全体で1000店舗まで拡大。2011年9月には中国に進出。宮﨑あおいを起用したテレビCMでも注目を集める一方、女性支援制度の充実、地域貢献活動へも積極的に取り組む。内閣府男女共同参画推進連携会議議員、石川文化振興財団理事長。

編集者PLUG

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