石川康晴の哲学塾 Vol.13
×中田 英寿(一般財団法人 TAKE ACTION FOUNDATION)×片山 正通(株式会社ワンダーウォール)

2009年の春から日本全国の旅を始めた中田英寿氏。訪れる先々で出会う伝統工芸家を前に、伝統を継承する“匠”の世界に横たわる課題とその先に見える希望を見たことでニッポンの伝統や文化の再興を目指して自身が代表理事を務める財団で「REVALUE NIPPON PROJECT」を始動する。その思いに賛同しプロジェクトに参加する事になったワンダーウォール片山正通氏もまた、その制作過程で改めて日本の技術、精神性と向き合う事になった。互いに歩むフィールドは違えど話す中で垣間見えるのは「プロデューサー」としての自覚、「ブランディング」を請け負う人間ならではの独特の視点と感性、挑戦する気概だ。この先の日本をブランディングする二人に石川康晴が迫る。

地方の価値と可能性を再発見、東京で付加価値を高め世界へ!

石川)中田さんはサッカープレーヤーとしての現役引退後、世界九〇カ国、一五〇以上の都市を旅されたとお聞きしています。そして現在は、サッカーの普及やチャリティーなど、様々な社会貢献活動を行う一般財団法人TAKE ACTION FOUNDATIONを立ち上げられ、代表理事を務められています。それと同時に、最近は日本全国を飛び回られているとお聞きしていますが、どのような目的なのでしょうか。

中田)私は二〇〇九年に、日本の伝統文化の継承や発展を促すことを目的に「REVALUE NIPPON PROJECT」をスタートしました。日本の技術や伝統文化の素晴らしさは、国外で高い評価を受ける一方で、国内ではその価値に気付かれていないことが現実として多くあります。匠が持つ価値と可能性を、より多くの人が理解し、新たな価値へと可能性を広げられたら.さらには国境や文化を越えて、世界中の人々へ届けることができたらと思っています。

石川)中田さんは「REVALUE NIPPON PRO­-JECT」の活動の一環として、日本の伝統文化支援を目的としたチャリティーGALA(※)を毎回テーマを設け、これまでに過去四回開催されています。二〇一一年には、片山さんも参加した作品を出品されたそうですね。

片山)NIGO®さんが監修するチームのコラボレーターとして参加しました。せっかくNIGO®さんとチームを組むのであればと、いつもの私たちのスタイルでアイディアを出し合いました。テーマが「和紙」だったので、張子を前提として考えられないかと協議の結果、等身大のシロクマを造ることにしたんです。同じくチームメンバーである工芸家の橋本彰一さんとも相談しながら、等身大のシロクマを造るという普通とは異なるサイズ感の仕上げや、和紙を用いたリアルな毛質の表現にチャレンジしました。伝統的な張子の工程をきちんと知るのはこれが初めてだったので、勉強になることがたくさんあり、日本の伝統工芸と改めて向き合う良い機会になりました。

石川)このGALAの活動も含めて、世界中を旅してきた中田さんが、そもそも日本の伝統工芸というものに着目された理由は何だったのでしょうか。

中田)外国人のアーティストやデザイナーといった感性の鋭い方々の中には日本が大好きな人が多いのですが、彼らが来日してもれなく買って帰るのが日本の工芸品だったんです。どんな工芸品があるのか、どこに行けば買えるのかといったことを頻繁に聞かれるのですが、当時の僕は全然分かりませんでした。そういった機会が増える中で、ここまでみんなが注目しているんだったら、実はすごく面白いんじゃないかと。そこで日本の伝統工芸品はもちろん、職人さんの技術や地方ならではの食文化まで実際に見に行こうと考え、四十七都道府県の旅を始めました。

伝統の中に光る日本人の精神

石川)実際に全国を見て回る中で、特に感じられたのはどんなことでしょうか。

中田)一番感じたのは、伝統工芸品も含めた日本独自のものが埋もれつつあるということです。そして、その問題点はみんながこの素晴らしい物や技術を知らないということ。現在は世界に情報を発信することも容易になり、海外への移動も以前より便利になりました。知ってもらえさえすれば興味を持っていただけるだけの魅力がある。まずはそれぞれがこのプラットフォームをうまく活用し、より多くの人に知ってもらう努力をすることが大切だと思っています。あとは、「伝統」という言葉に対する認識です。昔から続く物をそのまま作り続けるといった印象を持つかもしれませんが、食べる物があってそれを入れるために器が生まれたように、伝統も文化もその時代の人間の生活による積み重ねによって生まれるもの。その中には、流行り廃りもあれば移り変わりもあります。そんな流れの中で、これが昔からの伝統だからと言い続けて同じ事をやっても受け入れられませんし、それが伝統でもない。その時々の生活に合わせて革新を起こしながら、古来から続く技術も含めた日本独自の精神性や日本らしさをいかに表現出来るかが伝統工芸には大切なのだと言うことが分かりました。外国の方々も、単にデザインや歴史に惹かれるのではなく、そういった魅力に価値を感じているのだと思います。

片山)中田さんのお話にでた日本独自の精神性という部分には、海外の仕事が多くなってから特に感じるところが多いですね。日本人のきめ細やかな対応や、職人さんの十お願いすると十二やってくれるプロ意識はどの国のデザイナーも絶賛していますし、日本ならではの気質ではないかと思うんです。ただし、繊細さと引き換えにダイナミックさが足りないとも言われているんです。控えめなんですよね。これは企業との仕事でも感じる事ですが、話を聞くと驚くような独自の強みや技術を「あたりまえ」だと感じているケースが非常に多いんです。謙虚であることは悪いことではないですが、良さを知ってもらう為には私たちのような第三者が客観的に見てコミュニケーションを後押しすることで、本人達の自信につながったり、その技術が世に出るきっかけになることもあると思うんです。結局、中身がなければ強いコンセプトやブランディングは生まれません。日本という国は、沢山の良いものがあるにも関わらず、まだ知られてない”もの“や”こと“がたくさんある。本当の意味でのブランディングやプロデュースが、これからの日本にとって重要な課題になるでしょうね。

岡山県も含め全国各地を探訪。今後は地元媒体とタイアップも。

石川)日本全国の旅を始められた最初の頃に、岡山県も訪れたとお聞きしていますが、その時のお話を聞かせて頂けますか。

中田)酒蔵や果樹園、児島のジーンズ工場など、いろんなところを回りました。ホルモンうどんも食べましたよ!人間国宝の伊勢崎さんに教えてもらいながら備前焼も実際に体験させて頂きました。あと、片山さんの地元である赤磐市にある利守酒造も見学させて頂き、幻の米と呼ばれる雄町米を使った醸造について教えて頂きました。日本酒はこのお米が本当に重要で、その中でも雄町米は…

石川)本当にすごい知識ですね!

片山)岡山出身の僕たちよりも地元のことをよくご存知かもしれません(笑)。

中田)日本全国を旅しているおかげで、誰とお話ししていても、その方の出身地の話ができるので盛り上がりますね。知り合いのミュージシャンがツアーで地方に行った際はどこで食事したら良いかっていう相談も来るようになりました(笑)。 この旅も、いまは基本、個人の趣味のような感じで続けているんですが、これからは仕事としても取組んで行きたいと思っています。地元の新聞や雑誌、テレビといったメディアと一緒に回る事で、地元の人たちにもその地域の魅力を再発見してもらえるようなきっかけを提供したり、逆に全国に発信するような機会をつくるということを仕事にできればいいのですが。いまはある程度の情報はどんなことでも調べればすぐ手に入りますけど、絶対に手に入らない情報というのはその人が体験を通して得た「経験」しかないんですよね。これまで旅してきた経験から得た情報と、この先の旅での経験を通した情報をたくさんの人に伝えたいと思っています。実は今ある構想があって。東京にはたくさんの県がご当地の産品や観光情報を発信するアンテナショップを設けているんですが、 残念な事にそういったショップは、結局どこにでもあるようなおみやげ屋さんになってしまっているのが現状です。故郷である山梨県もアンテナショップを東京日本橋に構えているのですが、何かが足りないと感じていて。そこで、同じ山梨出身の経営者の方達と共に行政とも協力しながら、山梨県のアンテナショップをブランディングできたらと。内装から什器に至るまでこだわった居心地の良い空間を作り、山梨県産の上質なワインや料理を堪能出来るレストランを併設するなど、東京在住の人も普段からいってみたいと思えるような場所に変えることで、より山梨県の魅力を伝えることのできる拠点へとブラッシュアップする。最初は郷土である山梨県からできたら・・・と思っていますが、同様に日本各地の魅力を伝えるアンテナショップもプロデュースできたら嬉しいですね。

片山)私は二〇一〇年青森駅にオープンした「A-FACTORY」という商業施設のデザインをさせて頂きました。青森県産リンゴのシードル工房と地元の様々な食材が楽しめるマルシェの複合施設です。青森を盛り上げていこうという気持ちをカタチにした施設なんですが、地元の方も買い物や食事にいらっしゃいます。こういった施設が地方からもっと東京に進出してくると面白いですね。

「使い方」、「イメージ」、「オンリーワン」それぞれに必要なブランディング

片山)中田さんが全国を見て行く中で、実際に伝統的な技術が途切れてしまうという危機感を感じられることはありましたか。

中田)日本の伝統文化は多々そういった局面にあると思います。まず、工芸家が使う道具を作る職人が途絶えてしまうケースがあるということ。そうなると工芸家が自ら道具を作るなど工夫をされますが、昔よりも良い物が出来にくくなってくる。そして、その工芸品が衰退してくると、次に原材料すら入手出来なくなってしまう訳です。結局、どんなに素晴らしい物を作っても、いかにいまの生活に使えるようにするかといった視点が大切になってくるのだと思います。これは何にでも言える事ですが、例えば何か新しいテクノロジーを発明したとしても使い方の提案を含めてその魅力を伝えることができなければ、その素晴らしさが伝わらず、結局は活用されないでしょう。特に工芸品とは元々が生活に使う物ですから。工芸品におけるブランディングとは、その使い方の提案にもあるかもしれません。日本にはたくさん良い物があるにも関わらず、そのブランディングを手掛けるプロデューサーが不足しています。今後、日本の工芸品はもちろん、日本酒や食品も含めて、国内で競合するのではなく、海外に向けた新しいマーケットでのブランディングを自分自身でも手掛けていきたいと考えています。石川さんは現在自社ブランドのブランディングを世界で進められていると思いますが、どのような構想をお持ちですか。

石川)私の目標は世界一のアパレル企業になるということ。ブランディングというと、通常は広げるよりも一点に絞るという風に発想する方が自然だとは思うのですが、私の場合はメンズもレディースも、低価格も高級品のどちらも経営できる会社としてのアパレル企業ナンバーワンを目指しています。売上はもちろん、更に会社としても他にはないというオンリーワンのブランディングに繋がると考えているからです。片山さんは、店舗を軸に様々なブランドや商品のプロデュースも手掛けられていますが、現在は四月にニューヨークで発表されたトヨタの新たなグローバル戦略にも関わるレクサスのお仕事をされていますよね。

片山)この夏、東京・青山にオープンするレクサスというブランドを体験するスペース「INTERSECT BY LEXUS」をデザインしています。世界的な技術を持つトヨタが作る最上位車種ですから、造りや性能が良い事は言うまでもありませんが、ここは従来の車そのものを訴求するショールームとは異なり三フロア構成でカフェやイベントスペースなどを設置するんです。レクサスが考えるライフスタイル像を提案し実際に体験できる場所になる予定で、レクサスのモノ作りと共鳴する精神を空間から出せたらと思っています。レクサスがもたらすライフスタイルをコミュニケーションするというブランディングですね。

海外の視点が「新たな気づき」を生む。

石川)日本の価値を見直すためには、我々がもっと日本以外の価値観に触れることも大切。今回のお話で、日本人はもっと海外にも目を向けるべきだというメッセージにもなったのではないでしょうか。中田)海外に行かなくても、外国人の視点を取り入れるということも大切だと思います。彼らは、私たち日本人が気づかないようなところに興味を抱いたり、私たちが当たり前に思っているようなことに敏感に反応したり、新たな価値を教えてくれるからです。いま日本もクールジャパンと謳って海外に様々なものをアピールしていますが、そもそも日本の海外に対するプロモーションを日本人が行うこと自体に矛盾があるような気がします。外国人の方がより的確な戦略を立てられるのではないでしょうか。

片山)日本中どこにでもある住宅の家並みを見て感動している外国人の姿に、これが珍しいのかと私も驚いたことがあります。逆に日本では知名度が確立された絶対的な産品であったとしても、反応が思ったよりも薄いこともあるんです。日本を考える上で、文化が異なる外国人の視点は私たちにとっても再発見の良いきっかけになるかもしれませんね。

石川)お二人との話から、経験から得た情報を蓄積していくこと、国内の価値を改めて見いだすこと、海外の視点から新たな価値を見いだすこと。そして、ブランディングの必要性を再確認できました。読者の皆さんにも、自分たちの身近なところに照らし合わせて、活かせてもらえればと思います。今回はありがとうございました。

中田 英寿/一般財団法人 TAKE ACTION FOUNDATION 代表理事

1977年山梨県生まれ。元サッカー選手。日本代表として自身3度目となる2006年ドイツワールドカップに出場。6月22日のブラジル戦を最後に現役を引退。2009年1月、一般財団法人 TAKE ACTION FOUNDATIONを設立。2010年、同財団主催で伝統文化・工芸などを支援するプロジェクト「REVALUE NIPPON PROJECT」をスタート。http://www.takeactionfoundation.net/

片山 正通/株式会社ワンダーウォール 代表,武蔵野美術大学 空間演出デザイン学科 教授

1966年岡山県生まれ。インテリアデザイナー。2000年にワンダーウォールを設立。現在までに、フランス、イギリス、アメリカ、ロシア、香港、など世界各地でプロジェクトが完成、そして進行している。代表作にユニクログーロバル旗艦店(NY Soho店/5番街店、パリ、銀座 他)、マッキントッシュ青山店、宝満宮 竈門神社(かまどじんじゃ/福岡)、トム ブラウン ニューヨーク 青山、そして今夏オープン予定のINTERSECT BY LEXUSなどがある。www.wonder-wall.comwww.facebook.com/wonderwall.katayam

石川 康晴/株式会社クロスカンパニー 代表取締役社長

1970年岡山市生まれ。95年クロスカンパニーを設立。99年に「earth music&ecology」を立ち上げ、現在では他ブランド含め、国内店舗数約550店舗まで拡大、2011年9月には中国に進出。一方、女性支援制度を中心とした社内制度の充実、環境活動や地域貢献へも積極的に取り組み、東日本大震災で被災者100人の雇用を行ったことでも話題となった。内閣府男女共同参画局推進連携会議議員。国立岡山大学卒。

編集者PLUG

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