石川康晴の哲学塾 Vol.10
×中野 シロウ(プレイセットプロダクツ)

大手企業から独立起業し、「modern pets」が大ヒット!続々と人気キャラクターとのコラボレーションを手がけ、オリジナルを独自のタッチで描き直す「リ・デザイン」という手法を確立した中野シロウ氏。いま世界が注目する気鋭のキャラクターデザイナーに石川氏が仕事の哲学を訊いた。

石川)中野さんはキャラクターデザイナーとしてはもちろん、出版や広告のデザインまで幅広く活躍されていますが、仕事のアイデアというのはどんな時に生まれてくるのでしょうか。

中野)もともと物が好きで、子供の頃から骨董市に行くような子供でした。一見すると使い方も分からずガラクタに見えるようなものでも気になったものはとりあえず買ったり、お店の人に用途を詳しく聞いたりしていました。物好きな人っていうのは車だったり、時計だったりとある一定のジャンルが決まってくると思うんですけど、僕の場合は全方位型なんです。大抵のものが好きで、どんなジャンルのものでも深く深く入っていってしまうんですよ。加えて収集癖もあって、だんだんと物が集まってくると「これだけ資料があるのに仕事にもできないのか」と思い始めてきて、それがアイデアというか仕事の起点になっています。昭和三十年代の大鋸屑(おがくず)のぬいぐるみもかなり集めているのですが、そこから自分で作ってみようと制作したのが最初の商品「モダンペット」です。始めはたった五百個を制作しただけだったんですが、セレクトショップやアートショップで扱ってもらうというチャネル戦略も手伝って瞬く間に売れました。雑誌でも四十誌くらいに掲載して頂き、中には巻頭特集を組んで頂く事も。その後、すぐにライセンシーも三十社ほどついて頂きました。

石川)好きこそものの上手なれじゃないですけど、僕も中学生の頃お年玉を全て洋服につぎ込んでいましたね。周りがファミコンや漫画を買ったりする中で洋服ばっかり買っているのは僕だけだったかな。その時通っていたセレクトショップのお兄さんに「そんなに服が好きなら洋服屋をやったら」と言われたのが僕の起業の原点です。やっぱり好きな物やことを仕事に出来るのは幸せですよね。

中野)僕も嫌いなことを仕事にしていても長続きはしないように思います。

石川)でも、中野さんもいろんなお仕事の依頼がある中で、完全に自分が好きなものばかりじゃないし、自分がインスピレーション感じるものばかりじゃないと思うんです。読者の方に誤解して欲しくないのは、僕の場合であれば洋服、中野さんであればキャラクターデザイン、好きなことばかりを楽しみながらやっているじゃないかと思われるかもしれないけど、決してそうではないということ。例えば、僕はいまアースミュージック&エコロジーという女性向けのブランドを主力に事業を展開していますが、実は僕自身が本当に好きなものはメンズの洋服かも知れない。でも、キッズの服を作る楽しさも知っているし、女性向けのワンピースを企画して販売する楽しさも知っている。中野さんも自分が最も好きなテイストや、やりたいと思うことではないことでも仕事としてされているはずなんです。大切なのは与えられた仕事の中でも楽しさを見いだすということで、これができなければ可能性は広がらないし幸せにもなれないんじゃないかな。好きなこと以外やるなということではないような気がします。

中野)僕もそう思います。僕は十二年間玩具メーカーに勤めていましたが、もし入社してすぐ辞めて起業していたらいまの自分は無いと思います。元々は商品開発やデザインをしたいと思って入社したのですが、「お前はおしゃべりだから」という理由で当初は営業に回されました。この時、「自分はクリエイティブな人間で、営業をする為に入社したんじゃない」なんて考えていたら、得るものは何もなかったでしょうね。僕の場合、開き直って「玩具に関われるんならいいか」と思っていました。でも、営業をする中で、苦手だった人と対峙して話をすることが克服出来たり、いろんなニーズを知ることも出来ました。そうこうしていると実際に開発にも携われるようになったのですが、結局、営業がニーズを聞き出して、絵を描いて、商品を作って売るのが一番いんじゃないかと考えたのが、起業を決断するきっかけになりました。

石川)どんな仕事でもやっている内に楽しさを覚えることができるかっていうことが重要ですよね。現在はキャラクターデザイン以外にも様々なお仕事の依頼があると聞いていますが、正直、何でこれは自分のところに依頼がきたんだろうっていう仕事もあると思うのですが。

中野)自分がこれまであまり携わっていないジャンルやテイストであっても全部「お題」だと思っています。ありがたいことにいまは色んなお仕事の依頼を頂いていて、例えばテキスタイルのデザインや時計のカラーリング、洋服の展開やアニメーションの仕事もあります。一つひとつに応えていくことが自分のレベルアップにも繋がっているように感じますし、何より楽しいですね。お題が納期だと困るのですが(笑)。例えば、どうやっても時間がかかることでも一週間の納期で依頼を頂くこともあったりして。少人数でやっているのでそれにはどうしても応えられないんです。うちはあくまで個人商店ですから、クロスカンパニーさんのように会社の規模を拡大していくことも優秀な社員さんをたくさん増やしていくことも出来ない。一点一点の商品をその時の全力で世に送り出すことが、自分たちのポジションだと思っています。

石川)仕事の幅も広がっていく中で、中野さんはご自身の職業を何と定義されていますか?

中野)いろんな取材を受ける中で、よくデザイナーとかイラストレーターといった職業でご紹介していただくことが多いのですが、僕自身は自分で自分のことをデザイナーと言ったことはありません。人に聞かれて答える時には、プレイセットプロダクツという会社の代表という紹介の仕方をしています。正直、肩書きはなんでもいいかなと思っています。あんまりそこにこだわりはないですね。

石川)中野さんはあくまでアイデアを出す役割ということでしょうか?

中野)何もしなくても結構アイデアは頻繁に浮かぶんですよ(笑)。完全にノープランで打合せに行っても、話しているうちにアイデアが生まれてきたり。冒頭のアイデアの話じゃないですけど、良いアイデアが思いつくのは一人で悩んでいるときよりも誰かと話しているときの方が多いかもしれませんね。

石川)中野さんに対する海外からの注目も日増しに高まっていますが、ご自身の中で海外に評価を得たターニングポイントみたいなものはありますか。

中野)手塚プロダクションとコラボレーションさせていただいた時ですかね。中国本土で最初に放映されたアニメーションが鉄腕アトムなのですが、中国香港で行なわれた手塚さんのイベントでトークショーをした後、聴衆の人たちが自分の子供を僕に抱っこさせようとか握手しようっていう長い行列ができたんですよ。後で分かったんですが、こんな帽子被って眼鏡をかけているから僕のことを手塚治虫と間違えてたらしいんです(笑)。あれはビックリしましたね(笑)。ただ、自分たちがデザインしたアトムのキャラクターが飲料水のパッケージから屋外広告まで街中至る所に使われていて、とにかくすごい数でした。ヨーロッパや海外のセレクトショップなんかでもうちの商品を扱ってくださっているという話も聞きますが、海外のマーケットの大きさと可能性を感じたのはこの中国のイベントですね。きっかけは、起業して一年目くらいの時にウォルト・ディズニー社からコラボレーションのお話を頂いたことが一番大きなきっかけだと思います。モダンペットを見てディズニーのキャラクターでも同じように大鋸屑を入れたぬいぐるみを制作したいということで、最初はぬいぐるみの工場的な役割だったんです。そこからキャラクターの絵も使いたいということで、徐々にその絵が一人歩きし始めて。この仕事からいろんな有名なところからお話をいただけるようになりました。でも、海外はまだまだこれからです。外国の方とお話しするの緊張しますしね、ハグされただけで小ちゃくなってしまいます(笑)。海外というのは自分の中でこれからの大きな課題ですね。必ず出て行くことにはなるんですけど、どの時期に何のジャンルで出て行くのかということが大切だと思っています。いまも色々とお話は頂くのですが、実はあえてキャラクターをメインとした個展やイベントはしていないんです。先ほどの中国の話もパッケージが主であって、これまでも物販のイベント以外はしていません。あくまで自分の仕事は「物」を作ることなので、キャラクターだけを使ってアーティストのように海外へ出ていくのはまだ早いと感じています。極端な話、個展であれば誰でもスペースを借りて展示をすれば出来てしまうんですよね。そうではなくて、ステージが海外に変わっても、売れる、愛される商品を創作することが自分の仕事ですから。

石川)中野さんの創造される商品というのは本当にアイデンティティが際立つものだと思うのですが、こういったキャラクターデザインも含めた日本のカルチャーは独自のものではないかと思います。今後、これらが世界に広がっていく可能性についてどのように思われますか。

中野)現状ではこういったコンテンツは全て日本で生まれて発信されているようなものだと感じています。日本が輸出できる大きな産業としても期待されていますが、まだまだ伸びしろが無限大にある。

石川)中野さんは経営とクリエイティブを両方こなされているわけですが、精神的に追い込まれるようなことはないのですか。

中野)ありますね。僕は常に精神的に追い込まれていて、お酒の飲み過ぎで肝臓も悪いんです。これまでに三回検査入院してますからね。やっぱり見えないストレスがあるのかも知れません。

石川)それは経営とクリエイティブどちらにストレスを感じるんでしょうか。

中野)経営の方ですね。アイデアに詰まるっていうことはないんですが、経営っていうのは少し性分には合わないのかな。いまでもコクヨの領収書を自分できったりしています(笑)。これも楽しいんですけどね。

石川)中野さんにとって仕事とは何でしょうか。

中野)やっぱり好きなことですかね。普通の人から見たら僕の仕事は遊んでいるようにしか見えないかもしれないんですけど、そんな仕事ができるようになったのだから続けていかないとなと思っています。

石川)ご自身が手がけるキャラクターが売れる秘訣みたいなものはご自身で解明されていますか。

中野)できています。多くの場合、キャラクターの絵を描いて渡したら終わりっていうことがほとんどなんです。このキャラクターで何を作ろうかまで考えている人は以外に少ない。核になる商品は何にするのか、流通はどこにするのか、販売するチャネル戦略は、やっぱり営業的観点でしっかり考えて創作しないとキャラクターも育たないんですよ。ただ斬新なキャラクターを作るんじゃなくて、クリエイティブとマーケティング戦略まで含めた提案ができるのがうちの強みだと思っています。あとは悩まないっていうことですね。いままで悩んで良い物ができたことがないので。あえてアイデアを一晩寝かせることはありますけど、基本的にはアイデアが浮かんでサクサクできるときにやってしまうようにしています。

石川)僕たちも何時間もかけて戦略会議をしても何もアイデアがまとまらないときもありますね。発想する瞬間てあると思うんですが、僕なんかも思いついたことをメモに書き留めたりして覚えておくようにしているのですが、忘れたりすることありませんか?僕はたまに「あの時思いついたのいいアイデアだったのになぁ」なんて忘れてしまって後悔することがあって(笑)。

中野)ありますね(笑)。でも、それは忘れていいものなんだと思っています。自分に必要なアイデアっていうのは必然的に記憶されるものだと思っているので。

石川)これはクリエイターの方によくお聞きすることですが、予算も規制も無く、何でも好きなことができるとしたら何をしたいですか。

中野)日本のキャラクターが全て集まったテーマパークを作りたいですね。これはずっと前から思っていることでもあるのですが。自分の手がけたキャラクターだけでなく、過去のものまで含めて日本の漫画やアニメが集結したら、ものすごいテーマパークができると思うんです。それは世界各国に発信できる日本の大きな財産になると思うんですね。ただ全部を集めたいっていう発想はあったとしても、実現はなかなか難しいのですが、日本人の強いリーダーがいればひとつにまとまれると信じています。できればその時のリーダーは異業種の人がいいですね、石川さん(笑)。

石川)そんなテーマパークが作れるようにお互い頑張りましょう(笑)。

中野 シロウ/プレイセットプロダクツ代表

1967年神奈川県生まれ。美術学校を卒業後、玩具メーカーに就職し営業、マーケティングなどのキャリアを経た後、会社を辞め「play set products」を立ち上げる。同年発表された「モダンペット」が現在もヒットを続けているほか、人気キャラクターとのコラボレーションを数多く手掛け、さまざまなブランドを発表。オブジェや絵本などが発表され人気を博すほか、有名キャラクターのリデザイン、企業広告デザインなどを手掛け話題となる。現在では300社あまりとのライセンス契約、イベント、キャンペーン、出版などジャンルを問わず仕事を受け持ち、総数約2万6千点の作品を手掛けてきた、現在最も人気のあるデザイナーのひとり。

石川 康晴/株式会社クロスカンパニー 代表取締役社長

1970年岡山市生まれ。95年クロスカンパニーを設立。99年に「earth music&ecology」を立ち上げ、現在では他ブランド含め、国内店舗数約500店舗まで拡大、昨年9月には中国に進出。宮﨑あおいを起用したテレビCMでも注目を集めている。一方、女性支援制度を中心とした社内制度の充実、環境活動や地域貢献へも積極的に取り組み、東日本大震災で被災者130人の雇用を行ったことでも話題となった。内閣府男女共同参画会議議員。現在、岡山大学経済学部在学中。

編集者PLUG

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